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東京高等裁判所 昭和44年(や)5号 決定 1969年9月29日

主文

本件各請求を棄却する。

理由

本件各請求の要旨は、請求人らに対する東京高等裁判所昭和四二年(う)第二六一六号、地方公務員法違反各被告事件について、検察官の控訴の取下があつたので、請求人九名が請求人らの弁護人七名に対し支払つた弁護料および報酬合計一〇一万一、一〇一円の補償を求める、というにある。

よつて按ずるに、請求人らに対する刑事訴訟事件記録によれば、請求人らに対する地方公務員法違反各被告事件について、前橋地方裁判所の言い渡した無罪の判決に対し、昭和四二年八月四日検察官から東京高等裁判所に控訴の申立があり、次いで昭和四四年五月九日右控訴が取り下げられたことならびにその間請求人らが、それぞれ、弁護士芦田浩志、同角田義一、同田原俊雄、同鹿野琢見、同新井章、同植木敏夫および同高田清一の七名を各自の弁護人として選任したことが明らかである。ところで検察官のみが上訴をした場合において、上訴が棄却されたときまたは上訴の取下があつたときは、当該事件の被告人であつた者は、刑事訴訟法第三六八条により同法第三六九条の定める限度で、国に対し上訴によりその審級において生じた費用の補償を請求することができるが、補償の請求が許される費用は、当該事件の被告人であつた者の負担において支出されたものに限られるものと解するのを相当とし、本件において、群馬県教職員組合または日本教職員組合が、右各弁護人に対し、それぞれ、本件控許審における請求人らの弁護のための費用として一四万四、四四三円づつの支払いをした事実が本件記録上窺われないではないにしても、右の支出が請求人らの負担においてなされた事実は、これを認めるに足りる資料はないので、請求人らの本件各補償の請求は、許されないところといわねばならない。

よつて、本件各請求は理由がないから、刑事訴訟法第三七一条、刑事訴訟規則第二三四条第三項によりこれを棄却することとし、主文のとおり決定する。(石井文治 山崎茂 中村憲一郎)

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